犬の喉頭麻痺とは、
息を吸うときに自動的に開くはずの声門裂が思うように開かず、
十分な酸素を取り込めなくなった状態のことです。
ここでは、「犬の喉頭麻痺(こうとうまひ)」について病態、症状、原因、治療法別に解説します。
飼い主さんが病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんにワンちゃんの症状を説明するときの参考としてお読みください。
犬の喉頭麻痺の概要
喉頭麻痺(こうとうまひ)とは、喉頭(のど仏として触れる部分)の筋肉や神経に異常が起こり麻痺する病気です。喉頭は気管や肺に空気を取り込む入り口で、気管の頭側にあります。喉頭の働きは「吠える、呼吸をする、物を飲み込む」の3つの作業のときに役立ちます。
吠えるときは声門をわずかに閉じて、隙間を通る空気の振動が声になります。呼吸をするときはしっかりと声門を開き空気を取り込みます。
そして食べ物や液体が通るときはしっかりと声門を閉じて、飲み込む瞬間に喉頭蓋が喉頭に蓋をして食道側に食べ物や液体を流し込みます。私たちもゴックンと飲み込むときに、のど仏を触ると上側に押し上がるのがわかると思いますが、そのときに行われている作業です。
ところが、その喉頭が麻痺すると、この3つの作業に支障が出ます。犬では呼吸に関する症状(呼吸困難)がよく確認されます。
原因には先天性のものと後天性のものがあり、犬の場合、大半は後天性の喉頭麻痺です。
・原因不明な場合(特発性)や、
・多発性筋炎、
・重症筋無力症など筋肉の異常から発症する場合、
・神経の伝達障害や変性など神経の異常から発症する場合、
・甲状腺癌などの腫瘍による場合、
・外傷によるもの
・・・などが考えられます。
先天的な場合は進行性で、残念ながら予後不良で短命になります。
犬の喉頭麻痺の症状
呼吸時に声門がうまく開かず呼吸困難になります。胸を大きく動かす呼吸(努力性呼吸)になり、重症化すると酸素を全身に上手く送ることができずに口の粘膜や舌が青紫色(チアノーゼ)になります。
声もかすれたようになり、呼吸時にゼーゼーと苦しそうな呼吸音がする場合があります。
暑さに弱くなり、努力性呼吸に伴って、熱中症や不整脈、失神といった症状が出る場合もあります。誤嚥性肺炎を起こした場合は発熱し、浅く速い呼吸になります。
犬の喉頭麻痺の対象
◆先天性の喉頭麻痺は1歳前後で発症し、
・ロットワイラー、
・ダルメシアン、
・ラブラドール・レトリーバー、
・ブービエ・デ・フランダース、
・シベリアン・ハスキー、
・イングリッシュ・セッター
・・・などで好発します。
◆後天性の喉頭麻痺は10歳前後で発症し、
・ラブラドール・レトリーバー、
・ゴールデン・レトリーバー、
・セント・バーナード、
・アイリッシュ・セター、
・アフガン・ハウンド、
・・・などに好発します。
犬の喉頭麻痺の原因
喉頭麻痺は、先天性、後天性に分けられ、さらに後天性には、何らかの原因がわかるもの検査ではっきりとした原因のないもの(特発性)に分けられます。
特発性でない後天性の喉頭麻痺では、外傷や腫瘍(胸部などにある喉頭に関わる神経を傷つけられるなど)甲状腺機能低下症 重症筋無力症 多発性筋炎などが背景にある疾患として挙げられます。
後天性特発性喉頭麻痺は、ゆっくりと進行する全身性の末梢神経障害の症状のひとつと近年考えられるようになっています。
喉頭麻痺の検査は、以下のようなものがあります。
<喉頭麻痺の検査>
血液検査(特殊検査も含む)X線検査喉頭鏡(のどの部分を内視鏡で観察する)など
喉頭麻痺の背景に甲状腺機能低下症などが疑われる場合は、ホルモン検査(血液検査)なども行われます。
喉頭鏡では、浅く麻酔をかけ、犬が自分で呼吸している状態で、喉頭の動きを観察します。
上記以外の検査も必要であれば、その都度行われます。
犬が喉頭麻痺になってしまったら
まず、呼吸が十分にできておらず、体が高温になっている場合は、体を冷やし酸素吸入します。
呼吸を落ち着かせるために、必要であれば鎮静剤(意識レベルを低下させる薬)や抗炎症剤(ステロイド剤)を投与します。
状態によっては、緊急的に気管切開を行い、気道を確保する必要があります。
誤嚥性(吸引性)肺炎や巨大食道症があれば、肺炎の治療を行います。
喉頭麻痺の背景に疾患がある場合は、その治療も同時に行われます。
犬の状態や経過、併発している疾患によっては、永久的な気管切開が選択されることもあります。
喉頭麻痺の一般的な治療では、生活の質を上げるために、片側披裂軟骨側方化術など外科手術が行われます。
手術後に誤嚥性肺炎になる危険性などはあります。
症例経験の多い病院や、専門医、または二次診療施設などに紹介されることもあります。
後天性特発性喉頭麻痺で、喉頭麻痺が進行性の神経障害の一症状である場合は、うまく歩けなくなったり、足の麻痺や神経症状が現れてきたりするといわれています。
声の変化が続いたり、呼吸の音や様子がおかしかったりするときなどは、早めに動物病院に連れて行きます。
犬の喉頭麻痺の予防、治療
決定的な予防法はありませんが、肥満を避け、興奮させず、涼しい場所で生活をすると発症後の重症化を防げます。
重症筋無力症や多発性筋炎など、喉頭麻痺を起こす病気を発症している犬の場合は、喉頭麻痺を発症する前にそちらの治療を行うと良いでしょう。
症状が軽度の場合は内科療法を行いますが、これはあくまで対処療法で、根本的な治療ではありません。安静と体温管理、酸素吸入、興奮をおさえるための鎮静剤や抗てんかん薬の投与、喉や気管の炎症をおさえるためのステロイド薬の投与などを行います。
内科療法で反応が乏しい場合や重症な場合は、外科療法が検討されます。
手術法はさまざまありますが、声門を広げる手術によって喉頭部の空気のとおりを良くし、呼吸状態の改善を促す方法や、緊急時に気管を切開して喉頭部を介さずに呼吸をさせる応急処置などがあります。
手術を検討する場合は、麻酔や手術のリスクや合併症を踏まえた上で専門家とよく相談して決定しましょう。
まとめ
ここでは「犬の喉頭麻痺(こうとうまひ)」について
①犬の喉頭麻痺の概要、
②犬の喉頭麻痺の症状、
③犬の喉頭麻痺の対象、
④犬の喉頭麻痺の原因、
⑤犬の喉頭麻痺の予防・治療法・・・等を説明しました。
◆声の変化が続いたり、呼吸の音や様子がおかしかったりするときなどは、早めに動物病院で診察を受けて下さい。
◆飼い主さんが病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんにワンちゃんの症状を説明するときの参考としてお読みください。
この記事が少しでもお役に立てたら幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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